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〜一回生の章〜 八
いよいよというか、やっとというか初練習の日が来た。
仮入部から2週間、応援団らしい事と言えば『押忍』と言う挨拶を覚えた事と毎夕の行列できちんと列んで歩く事くらいか、、、。
授業が終わりいつものように部室へ急いだ。グラウンドや他の部室はいつもの光景があったが、我が応援団の部室は今までと違うただならぬ雰囲気が漂っていた。
あの悪魔二人組が早々と部室へ来て、タバコも吸わずジャージに着替え軽いストレッチをしているではないか!
「やあ〜君達、早く着替えて練習をしようじゃないか!」
前屈しながらヨシダは見せた事もない笑顔で森田健作ばりに爽やかに言った。しかし身体が硬いのか張り出した腹が邪魔なのか、やっぱりデブなのか前屈体操というより軽い会釈にしか見えない動作で額に汗し、先程の爽やかさはぶっ飛び、暑苦しさだけが残った。
その横ではオオツカが試合前のボクサーのように首を回し、指っをポキポキ鳴らし、時折回し蹴りのような格好を俺達に見せ付け威嚇していた。その眼はまさしく獲物を見つけたアナコンダのようで冷たく光っていた。
俺達は部室前でパンツ一丁になり急いで着替えをした。
しばらくすると二回生達も集まり、部室内で着替えを済ませ点呼が始まった。
中京のジャージは学年別で色分けされていた。それは入学時に決まった色を三年間通して着るのである。俺達一回生はこの春卒業した先輩達の色【緑】三回生は【紺】二回生が一番しょぼく【えんじ】に別れていた。
そして丸襟、手首、ズボンの側面には【赤、白、青】の通称(中京ライン)があしらわれている。
総勢20名の点呼が終わりヨシダからの指示が飛んだ。
「よし、今日の練習場は校舎屋上だ。ウチヤマとヤマダ、イナモトは和太鼓と台を持って行け。残りは屋上までダッシュや!校舎横の螺旋階段を上がって行け、2年が後をぼう(追う)から抜かれたらヤキやぞ!行け〜!!」
ヨシダの号令と同時に俺達は屋上目掛け走り出した。部室から100メーターぐらい走ったところでまたヨシダの声がした。
「行きゃぁせ!!」全力疾走の中振り返ると二回生四人が一斉に走り出した!
「来たぞ!」横を走るセイゴが言った。
「余裕だろ、こなけん(これだけ)距離があるで」
と余裕のヨッチャンで振り返った俺の眼に恐ろしい現実が映った!?
それは同期で眼鏡でデブで信じられない程鈍足のイトウの姿だった!
“なんだてあのデブ、100メーターもビハインドがあったのに。まぁはい(もう)50メーターぐらい詰められとるだにゃぁか!”
その後ろを必死の形相で走る二回生に脅威を感じながら俺はセイゴを呼び止めた。
「セイゴ、イトウがヤバイてっ!待っとって連れてこまい!」
するとセイゴは足を止め、
「イトウ、早よ走れっ!無理ならそこで死ね!」
激励とも罵声ともとれるセイゴの声にイトウは顔色を変え眼鏡をずらしながらシフトアップした。二回生のムラマツがもの凄い脚力で猛追して来た。
イトウは体を左右に振り息も絶え絶えで顎を上げ顔を真っ赤にし、今にも転倒しそうだった。
「イトウ〜早よせえや!」セイゴが手を伸ばし叫んだ。
ムラマツがあと20メートルぐらいと迫った時、俺とセイゴの間にイトウが倒れ込むように体を預けて来た。
「ハァ、ハァすすまん」「喋るな、行くぞ!」
俺とセイゴはイトウを両脇に抱え螺旋階段に向かった。“階段は狭い、俺とセイゴが壁を作り背後の二回生をブロックしてる間にイトウを先行させれば抜かれずに済む”この超ナイスで古典的な作戦に、後ろからぼって来た(追って来た)ムラマツが金切り声で
「どけぇ〜、お前等!こっすいぞ!(卑怯)」
と叫びながら俺のジャージに手を掛けた。“何するんだ、この青瓢箪。うっとーしい”それを見たセイゴがムラマツの手を振り払おうと必死だ。
俺は引きずられながら叫んだ。
「ウオリャ〜!イトウ早よ行きさらせ〜!」
ジャージが伸び首が絞まりそうになりながら再度叫んだ。“抜かれたら終わりや、なんであの白豚のせいで俺とセイゴが、、、クッソ”怒りの矛先がイトウに向いた時、
「着いた〜!」
とイトウの声がした。
上を見上げると螺旋階段もあと半周程で屋上の距離にいた。
「セイゴ行けぇ〜!」命じた声にセイゴは
「アホか一緒に行くぞ!」と俺の腕を掴み階段を駆け上がる。
俺を掴むムラマツはもう抜く力が残っていないようだった。三段、二段、、、
「ヨッシャ〜!ウォォ〜!」
屋上に倒れ込みながら二人は叫んだ。
俺から手を離したムラマツもくたばり果て膝を落としうなだれている。
俺は仰向けになり猛スピードで深呼吸を繰り返した。目には青い空がものごっつく綺麗に映っていた。そんな小さな感動を感じていると、その青空を隠すようにひとつの影が俺を被った。
「誰や?」逆光で姿が見えない。すると俺の顔に滴がポタポタ落ちて来た。“なんじゃこれ?”生暖かい滴は汗と分かり気持ち悪さで跳び起きると、真っ赤な顔から蒼白になり本物の白豚になったイトウが立っていた。
「ハァ、ハァ、ゴメンな俺のせいで。ハァ、ハァ」
息まで生暖かいイトウを突き飛ばし
「おみゃぁのせいで、まあちっとでヤキだったがや!セイゴにも謝れっ!」
激高する俺に一瞬怯んだイトウはセイゴにも頭を下げた。
そうこうしていると額がナイアガラの滝みたいになった太鼓を担いだタイチとヤマダ、太鼓台を抱えたイナモトに残りの二回生と悪魔二人組が屋上に到着した。
「あ〜あ、ええ天気だなも。練習なんかやっとれえへんわ」
大あくびと共にヨシダが言えば
「本当だなキョーディ、こんな日はお姉ちゃんとチョメチョメに限るわ」
と腰を高速回転させながらヘラヘラ笑うオオツカ。“本当この二人は天気同様、脳天気やわ”呼吸を整える俺達にナカシマから号令が、、、
「整列!」
その声に横一列に並ぶ。続けて、
「横隊番号!」「1、2、3、・・・14。1年14名異常ありません!」
点呼を終えた俺達をヨシダとオオツカがなめ回すように見ていた。
「1年、抜かれたもんはおれせんのきゃ?」
統制のマコトが「押忍、おりません」と答えると
「ほうきゃ、優秀だぎゃ」と少し残念そうにヨシダが言った。
オオツカは俺達を抜けなかったムラマツの前に無言で仁王立ち。オオツカを直視できないムラマツは俯きながら口を開いた。
「押忍、すいません。ニシオとウシダ(セイゴ)が邪魔をして、その、、、」
そんな言い訳をするムラマツに
「へっへっへっ。ほうきゃぁ〜、邪魔されたきゃぁ〜?役者やのぉ〜」
と、あの『嗚呼!!花の応援団』の名台詞を吐き捨て睨みを効かせるオオツカ。
その眼光と迫力に俺達は背筋を凍らせた。しばらくの沈黙の後
「よ〜し校歌だ、おみゃ等覚えたやろなっ!1番、2番をええと言うまで歌い続けろ!ムラマツ!太鼓!」
ヨシダの命令と共に自然体をとり合図を待った。ナカシマの「校歌〜、よお〜い!」の号令で太鼓が鳴った。(ドン、ドン、ドンドンドン。押忍!)
初練習である校歌が始まった。最初の1番が終わるや否や、悪魔二人組は二回生のヤスオを屋上の隅っこに呼び、あの“焼肉パーティー”なるへんてこな歌と踊りに爆笑を繰り返し、これっぽっちも俺達を見ていなかった。
“全くあの二人は何を考えているのか、、、。”
俺達は歌い続けた。30回以上はリピートしただろう。そして頭がぼーっとし声がかすれ始めた頃、
「あれっ?おまえん等まんだ歌っとったんきゃ。そろそろ夕方、ご近所に迷惑だろ。それも下手くそな歌で、お空でカラスがにゃぁとるで、まぁきゃぁってくぞ(帰るぞ)」
全くジコチューというか適当というかヨシダの言葉に開いた口が塞がらない。
とどめはオオツカの
「テメェ等、ちゃっと帰るぞ!おはようスパンク見逃したらヤキだでなっ!たわけ!!」
“おはようスパンクだぁ?その顔とキャラで。勘弁してくれよ〜”
結局二人の暇つぶしに付き合わされた練習初日。【デビルブラザーとヤンキー達】という名でテイチクレコードからデビュー出来るくらい校歌を歌い込んだ。
<続く>
今回は、今春の選抜高校野球に出場が決まった我が母校を祝し校歌を掲載させていただきます。
『中京高校校歌』
ここ八事山 東海の
大都名古屋の 東に
中京の名を 負ひ持ちて
城と守る 我が学びの舎
凜乎とかざす 真剣味
見よ躍進の 先輩の業績
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